猫の死因上位にランクインしている「腎臓病」。
特に慢性腎不全は進行を止められないことも多く、猫やその飼い主さんたちを長年苦しめてきました。
ところがとある研究チームの発見により、一筋のひかりが差し込んだのです。
その鍵となるのが「AIM」というもの。
一体「AIM」とは何なのでしょうか?
発見の経緯と、なぜ猫の腎臓病に有効なのか、それぞれ解説していきます!
非臨床試験開始!「猫の寿命30年」も夢じゃない
今まで数々の猫たちが腎臓病によって命を落としてきましたが、もしもそれを阻止することが出来たなら…。
現在の猫の寿命は15〜20年と言われていますが、それを大きく引き上げることが出来ます。
日本の研究者 宮崎徹さんは、これまで腎臓病に苦しむ猫や人々のために日夜研究を続けてきました。
そしてついに2024年6月、非臨床試験が始まることが発表されたのです。
さらに翌年2025年には、臨床試験(治験)も開始できる見込みとのこと。
このまま順調に進み、あとは無事薬が承認されれば、慢性腎臓病も治る病となり
「猫の寿命は30年」「猫生30年時代」
となる日もそう遠くはないはずです。
AIM発見の経緯
宮崎さんがAIMを発見したのは、今から20年以上も前のこと。
免疫に関する新しい分子を探していたとき、とある免疫タンパク質を発見しました。
そして試験管内実験により、マクロファージ(免疫細胞)をアポトーシス(細胞死)させにくくすることが分かったため、「apoptosis inhibitor of macrophage」の頭文字をとって「AIM」と名付けられました。
その後、AIMとは何なのか?その正体を突き止めようと、約6年間ものあいだ研究を続けましたが、免疫が作っているタンパク質の機能だという思い込みからなかなか成果は得られず。
そんなとき、たまたますれ違った教授から“太ったマウスを使ってみたらどうか”とアドバイスをもらったことで転機が訪れたのです。
本当に関係あるのか最初は半信半疑だった宮崎さんでしたが、それでも実際に試してみたところ…
AIMが不足しているマウスは太りやすく、そこにAIMを追加することで肥満を解消させることができたのです。
これはどういうことなのかとマウスの肝臓を調べてみると、これまでに蓄積された脂肪だけではなく、肝臓でうまれるガン細胞までもが、AIMの働きにより除去されていたのだとか。
こうしてひょんなことからAIMの役割を知った宮崎さんは、当初の肥満や肝ガンとAIMの関わりから始まり、やがてすべての病気に応用できるのではと研究を広げていきました。
そして2013年、猫の腎臓病による死亡率を知り、人だけではなく猫の助けにもなりたいと、猫の治療薬の開発も始めたのです。
猫のAIMは抗体から離れにくい
AIMは普段、血液の中にある「IgM」という抗体と結合しています。
しかし老廃物のような、体内に放置されると病気の原因になるものを見つけると、IgMから離れて老廃物にくっつきます。
こうすることで尿中に移行したとき、老廃物を除去するのが仕事のマクロファージに「ここだよ」と知らせ、見つけて食べてもらえるようにしているのですね。
通常、ヒトやマウス、イヌなどの生き物は、この働きがスムーズに行われているのですが、猫のようなネコ科の生き物は少し違います。
先程、AIMは老廃物を見つけると「IgM」から離れると説明しましたが、猫のAIMは「IgM」との結合が強すぎるためにうまく離れることができません。
その結果マクロファージに見つけてもらえなかった老廃物が尿中にどんどん溜まっていき、尿をつくる腎臓に多くの負担がかかることで、腎臓病などの病気を引き起こしてしまうのです。
そこで、足りないAIMを補充し、溜まった老廃物をマクロファージに食べてもらえるよう手助けするのが、今回目指している猫の治療薬というわけです。
これは現在腎臓病をかかえる猫の治療薬となるほか、予防目的で接種することでも効果が得られると考えられています。
今のところ副作用はありませんが、今後抗体ができて効きにくくなってしまう可能性はあるとのことです。
寄付により研究再開
2021年の夏のこと。
コロナ禍の影響で企業からの資金支援がストップしてしまい、研究を中断せざるを得なくなってしまったのです。
するとこの事態を知った全国の愛猫家が自主的に寄付をしはじめ、なんとたった2日間で約3000万円もの支援金が寄せられました。
さらにそれ以降も申し込みは止まらず、現在はHPから寄付ができるようになっています。
寄付したい方はこちら↓
おわりに
宮崎さんが偶然AIMをみつけ、肥満を研究している教授とたまたますれ違い、そしてアドバイスをもらわなければ…
猫の未来は全く違ったものになっていたでしょう。
AIMの働きで老廃物を定期的に除去し、腎臓の負担を抑えることで、今は治すことが難しい慢性腎臓病が治せる病気になる。
猫の寿命が延びるかもしれない、その歴史的瞬間に立ち会える日を心待ちにしています。